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第3回目相続問題は、生きている間に対処ができる!
01相続の基本
〜これだけは知っておきたいこと
相続の基本 〜これだけは知っておきたいこと〜
長男が事業の跡継ぎとなる、両親を引き取って介護したのは兄弟姉妹の一人だけ…こういうことは世の中に数多くあるのではないでしょうか。
ところが、みなさん「法定相続分」という言葉は知っていても、跡継ぎになったのだから全部長男が受け継ぐことになったと思った、両親の介護をした人が全財産を受け継ぐものだと思った、ということも珍しくはありません。
実は、跡継ぎや介護といった概念と相続の制度は、直接の関係はありません。あくまでも相続の制度の中で「考慮される要素の一部」に過ぎないのです。
ですから、まずは相続の制度の基本を知っておいていただくことが重要です。
1 長男長女が受け継ぐわけではありません 〜法定相続分〜
2 介護をしていれば相続で有利になるとは限りません 〜寄与分〜
3 遺言を書いてもそれだけで済むわけではありません 〜遺留分〜
4 遺言は後で偽物かどうか争われる危険性があります 〜遺言の方式〜
5 プラスの財産だけが相続されるわけではありません 〜相続の対象〜
1. 長男長女が受け継ぐわけではありません 〜法定相続分〜
遺言も何もなくある人が亡くなった場合、相続の制度では、法定相続分による分割が原則です。
*法定相続分とは
(1) 配偶者(夫婦の一方)は基本的に必ず相続人になります
つまり、妻Bが存命である限り、妻Bは常に相続人になるのです。
(2) 配偶者以外の方には順位があります
第1順位:子
第2順位:親やさらにその両親
第3順位:兄弟姉妹
つまり、Aさんが亡くなった時点で子Cが存命であれば、妻Bと子Cが相続人になります(ア)。
もし、Aさんが亡くなった時点で子Cが存命でなければ(もちろんAさんと妻Bとの間に初めから子どもがいない場合も同じです)、妻BとAさんの両親D、Eが相続人になります(イ)。(ただし子Cにさらに子(Aさんから見れば孫)がいる場合は「代襲相続」といってその子(孫)が子Cの相続分を引き継ぐことになります。
さらに、Aさんが亡くなった時点で子CもAさんの両親D、Eも存命でなければ(初めから子どもがいない場合もやはり同じです)、妻BとAさんの妹Fが相続人になります(ウ)。
(3) (1)と(2)の相続割合は次のとおり
配偶者と子 → 1:1
配偶者と親たち → 2:1
配偶者と兄弟姉妹 → 3:1
(4) 同一順位内に複数いたら頭割り
上の(ア)の場合は、B(配偶者)とC(子)ですから1:1の割合、つまり半分ずつ財産を相続することになります。
上の(イ)の場合、B(配偶者)とD、E(親)ですから2:1の割合、つまり3分の2をBが、残りの3分の1をDとEが相続します。DとEは同順位の相続人なので、上の(4)のルールにしたがって、3分の1をさらに頭割りして結局DとEがそれぞれ全体の6分の1ずつ相続することになるのです。
上の(ウ)の場合、B(配偶者)とF(妹)ですから3:1の割合、つまり4分の3をBが、残りの4分の1をFが相続することになります。
2. 介護をしていれば相続で有利になるとは限りません 〜寄与分〜
両親を引き取って介護したのだから相続のときにはその分が考慮されるのではないか…そう思う方は少なくありません。
実際、相続の制度には「寄与分」という制度があり、両親の介護をしたことによって相続の際に有利に考慮されることもあります。
しかし、この「寄与分」という制度には限界があり、介護の負担の大きさに比例して相続で有利に考慮されるとは限らないのです。そのため、場合によっては、介護についてほとんど考慮されずに他の相続人と全く同じ相続分でしか相続できないこともあるのです。
*寄与分とは
寄与分とは、特定の相続人が、被相続人の財産の維持または形成に特別の寄与、貢献した場合に、その相続人に対して寄与に相当する額を加えた財産の取得を認める制度をいいます。
ここで書いたとおり、寄与分といえるためには、被相続人の「財産」の維持または形成に特別の寄与、貢献があったことが必要となるので、(1)特定の相続人の寄与行為によって被相続人の財産の維持又は増加があること、(2)寄与行為が「特別の寄与」といえることの双方が必要となります。
具体例で見てみましょう。
最も認められやすい例は、ある特定の相続人が両親に財産を贈与したようなケースです。これによって両親の遺産が増えていたということになれば、寄与分として認められやすいといえそうです。
場合により認められる可能性があるケースとしては、両親の事業を手伝ったり、両親の賃貸不動産を管理したようなケースです。この場合には、両親から給与をもらっていたりすると「特別の寄与」と認めてもらえない可能性があるため、常に寄与分が認められるとまではいえないのです。
そして、もっとも難しいのがやはり介護になります。介護は「寄与分として考慮される=相続する財産が増える」こともあるのですが、配偶者や親子など、扶養義務のある人同士では「扶養の一環」とされてしまい、「特別の寄与」と認めてもらえず相続で全く考慮されないこともありうるのです。
3. 遺言を書いてもそれだけで済むわけではありません 〜遺留分〜
遺言で「全財産を○○に贈与する」と記載すれば、とりあえず特定の人に全遺産をあげることはできます。
しかし、相続人には「遺留分」があるので、後で別の相続人からこの遺留分を請求されるおそれがあります。
*遺留分とは
遺言などで全財産が誰かに譲られてしまったとしても、法定相続人(前述1の法定相続分をもつ人のことです。ただし兄弟姉妹を除きます。)であれば元々の法定相続分の2分の1(ただし相続人が前述1の直系尊属のみの場合は3分の1)を請求できるという制度のことを「遺留分」といいます。
具体例で紹介します。
例えば、遺言を書いたAさんにはBとCという2人の子がおり、この2人が相続人となるとします。
Aさんが遺言で「遺産は全てBに譲る」と書いたとしても、Cさんが遺留分の権利を行使して請求すれば、遺産の4分の1について遺留分として受ける権利を持つことになるのです。結果として、Bさんは遺産の全てを確定的に得られるわけではなく、Cさんが遺留分の権利を行使すればBさんは遺産の4分の3しか確保できないことになるのです。
遺言を書く時には、この「遺留分」に気をつける必要があります。
逆に、遺言によって全財産が他の人に渡ってしまったという場合には、この遺留分の権利を行使して請求することを考えましょう。
4. 遺言は後で偽物かどうか争われる危険性があります 〜遺言の方式〜
遺言の書き方は、法律で厳格に定められています。この書き方を守らないと無効になってしまうこともあります。
特に、本人が自筆で作成する「自筆証書遺言」は、書き方の問題も生じやすいですが、保管方法の問題からも後に「偽造だ」といって争われる可能性が高いといえます。「筆跡鑑定」というものもありますが、これは絶対的な鑑定方法として信頼されているとまでは言い難い面があるので、筆跡だけから偽造か否かを判断することは正直困難であるといわざるを得ません。
さらに、弁護士などに相談せずに一人で書いてしまうと、書いた文章の意味が分かりにくいために遺言としての効果が認められなくなるおそれもあります。
他にも、作成方法や保管方法としては非常に信頼性の高い「公正証書遺言」であっても、認知症など作成時点での本人の判断能力を疑わせるような事情があれば、やはり「遺言は無効だ」といって争われる可能性があるのです。
遺言を完璧に作ることは、なかなか難しいものなのです。
5. プラスの財産だけが相続されるわけではありません 〜相続の対象〜
相続というと高額の財産を分配するというイメージが強いですが、実は、相続では、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金などの負債(マイナスの財産)も一緒に相続されてしまうのです。
しかも、負債は相続人の合意で分割するわけではなく、相続により自動的に法定相続分に分けられて各人が引き継ぐことになります。ですので、相続開始後に何もしないままでいると、相続してから数ヶ月後に突然債権者からの請求が来るということもあるのです。
こうした意外な請求から責任を逃れるためには、相続後できる限り早い時期に負債も含めた相続財産の状況を調査して、場合によっては相続放棄や限定承認等の適切な手続きをとる必要があります。
また、調査を始めてみたもののまだ調査が十分でなく、相続放棄してよいかどうかも判断できないというときは、家庭裁判所に対して「相続放棄・承認の期間伸長の申し出」ができますので、この手続も知っておいて損はありません。
なお、相続放棄や限定承認、相続放棄・承認の期間伸長については別のページで詳しくご説明します。
- 掲載日:
- 2022年10月4日
- 監修者:
- 川島 英雄 弁護士